ポルトガルの作家ジョゼ・サラマーゴによる長編小説『白の闇』を読みました。
突然失明する奇妙な伝染病が広がり、感染者を隔離するものの、やがて全ての人の目が見えなくなるという絶望的なストーリーで、結末には驚かされました。
世界中で高く評価されており、「ブラインドネス」というタイトルで映画化もされています。
急速に秩序が崩壊していく世界を描いている衝撃的な作品です。簡単にあらすじを紹介します。
あらすじ
注意:ややネタバレあります。
『白い闇』この物語はある男が、突然失明するところから始まりまります。この男にかかわった人も順に失明していきます。
一瞬のうちに完全に失明し、目の前が真っ白になるという恐ろしい伝染病。政府は緊急措置として失明した人と感染が疑われる人を使われていない精神病棟に隔離させました。
病棟の建物はふたつの翼に分かれており、片方には失明した人、もう片方には感染が疑われる人に分けられました。そして政府軍が外で見張りにつき、勝手に建物の外に出ようものなら・・・
失明した方のグループは、お互いが何も見えていないので、どこに何が置いてあるのかも、トイレがどこにあるのかも分からない状況です。この時点で相当やばいです。
この白い病は次々に広がり国中の人が感染しました。そして全ての人の目が見えなくなりました。
ただ、なぜかこの病に罹らなかった女性が一人だけいて、最初に収容された失明したグループに、目の見えないふりをして紛れ込んでいました。
一人だけ目の見える女性
収容所に目の見えないふりをして紛れ込んだこの女性は、少しでも状況を良くしようとさりげなく皆を助けます。見えている事を周りに内緒にして。
収容所内はまさに地獄絵図。お互いに誰からも見られていない世界で、自分をむき出しにした人々が、生きていくために必要な基本的な欲求すら満たされずにいます。あっという間に秩序が崩壊していきます。
目の見える女性はこの状況を見て、自分の精神を保つことが出来るのでしょうか…。
感想
まず、この病もすごいのですが、政府の非人道的対応にびっくりしました。いくらなんでも目の見えない人だけで隔離したらやばいでしょ~。現実の世界でも緊急事態条項が設けられてしまうと、こんな事も出来ちゃうんだろうな~とか色々と考えちゃいました。
話しを戻しますが、収容所内ではかなり暴力的な状況が続きます。お互いに目が見えず、極限に追い詰められた人間が本能と欲望をむき出しにします。人から見られるからこそ恥ずかしい…これってやっぱり大事ですね。
読んでいて途中で気づいたのですが(すぐに気づけよw)この物語には登場人物の固有名詞がでてきません。医者、医者の妻、サングラスの娘、黒い眼帯の老人など…人物の特徴で読み手の想像力をましましにしてくれます。小説を読んでいて、名前と人物像が分からなくなって、前のページに戻ることがよくある私にはとてもありがたかったです。登場人物が多いと覚えるの大変ですから(笑)
さらに、「 」のない会話も特徴です。それなのに読みやすく感じたのがうんと不思議に思いました。
最初から最後まで緊迫感につつまれ、ページをめくる手が止まりませんでした。この本に出合えて本当によかったです。映画「ブラインドネス」も機会があれば見たいです。
今回は以上となります。最後まで読んで頂きありがとうございました。
極限に追い詰められた人間の弱さと魂の力を圧倒的な筆力で描いた現代寓話。
『白の闇』ジョゼ・サラマーゴ (著)